HiGH&LOWとLDHが教えてくれたこと③「HiGH&LOW THE WORST」
(↑前回記事です。)
5.『ザワ』を観た
私の中のヒーローである村山良樹がいる鬼邪高校を中心としたスピンオフ映画『HiGH&LOW THE WORST(以後『ザワ』)』が公開され、私は一緒にハイロー鑑賞会をした友人とともに、公開初日に観に行きました。
鑑賞後、私が最初に発した言葉は「え、あと5000回観に来よう…」でした。
実際に上映期間終了までに観に行った回数は結局13回でしたが、一つの作品を観るためにこれだけの回数、劇場へ足を運んだことは生まれて初めてでした。
もちろん、ことさら興行収入に貢献したいと意識したわけでも、鑑賞回数を重ねると特典が得られるキャンペーン等があったわけでもなく、ただただ楽しく、感動的な映画体験だったからです。
まず驚いたのが、劇場で見るハイロー製アクションのド迫力でした。
自宅でテレビモニターで観ていた時とは段違いの臨場感、爽快感。なるべく鮮明に詳細に観られるよう、SNSで話題になっていた某ブルーベリーサプリを摂取して観に行くようになりました。
劇場でしか味わえないあの感覚に、私は何よりもハマってしまったのです。
そして今回も役者陣が大変に豪華でした。
特に、まるで少年漫画の中から抜け出てきたかのような天真爛漫な主人公・花岡楓士雄役に大抜擢されたTHE RAMPAGEの川村壱馬さんは凄かったです。
あまりに自然で華のある演技だったため、映像作品への出演がまだたったの2作目であるという事実を知った時は心から驚愕しました。
また、轟洋介役を引き続き演じた前田公輝さん、そしてあまりに完成されたビジュアルとキメ台詞でおびただしい数の女子を陥落させた鳳仙高校幹部・小田島有剣役の塩野瑛久さん。この二人はSNSでも特に話題になりました。
その他、一般的な知名度は一番であろう志尊淳さんや、葵揚さん、小柳心さん(ブラザートムさんのご子息だと知った時は驚きました…)、荒井敦史さんといった鳳仙高校の面々。また、鬼邪高校全日制の生徒達では佐藤流司さんとうえきやサトシさんの狂暴なのに絶妙にかわいらしいコンビや、解説役として物語を支えるチャーミングな舎弟キャラ・ジャム男を演じた福山康平さんなど……とても挙げきれませんが、それぞれバッチリ個性が立っていました。
中でも個人的に特筆したいのは、主人公・楓士雄の幼馴染で物語の重要なキーパーソンでもある新太役の矢野聖人さんです。というのも、クライマックスで新太と楓士雄が対峙するシーンが私は大好きなのです。
あの「どいつもこいつもうるせぇんだよ」と叫んだ新太の、言葉とは裏腹な今にも崩れ落ちてしまいそうな表情が、私はずっと忘れられません。
そして、それに対する楓士雄の、怒りと悲しみが入り混じる苦悶の表情も。
あのシーンは文字通り何度となく繰り返し観ていても、思わず涙が込み上げてきてしまうほどに素晴らしい熱演の応酬でした。
このシーンだけでなく、ハイローシリーズ全体の大きな魅力の一つに「若き俳優たちの演技合戦」というのがあると思います。
インタビュー等を読むとよくわかりますが、例えば村山さんの「行くぞテメェら」のように後のシリーズで定番になったり、SNSで話題にあがってくるような印象的な台詞は演者のアドリブであったという事がハイローでは多いのです。
これだけキャストが多い作品の中で、新進気鋭の俳優達が、いかに爪痕を残すのか。食うか食われるか。つまり“拳一つで成り上がる”という、まさにハイローの世界そのままのドラマが裏側で繰り広げられているわけです。
そうして今回の『ザワ』でもまた、若手俳優陣が余すことなく実力を発揮してくれているため、観れば観るほどサブキャラクター達の魅力がどんどん目に留まるようになってしまい、新しい視点が次々に生まれてくるのです。
そのため計13回、上映期間中ほぼ週2回程度のペースで観ていても「もうこのくだり飽きたわ…」という状態になるようなことは全くありませんでした(これに関しては私がヤバいという可能性も捨てきれませんが)。
また、『ザワ』で今までのハイローシリーズから一層進化していると感じたのが、今回コラボしている『クローズ』『WORST』の作者である高橋ヒロシ先生による脚本、そして物語の構成でした。
まるで遊園地のアトラクションのように、とにかく観客を飽きさせることがないまま、何度も“アツい”山場へと連れて行ってくれる、さすがのストーリー展開でした。
特に終盤の団地戦は必見です。そもそも「集合団地を利用したアクション」という発想がまずもって素晴らしいです。私は応援上映にも何度も参加したのですが、団地の中で大規模なアクションが次々畳み掛けられる終盤はいつも目頭を熱くしながら「最高!!」としか言えなくなっていました。
日本のどこにでもある構造のマンション、スノコや脚立など、私達の身近にあり生活に密接にかかわるアイテム達があんなにもインパクトを残す舞台装置に変貌するなんて、誰が想像できたでしょうか。
また、今回のアクションの中にある細かな小技には『ザム』等にあったアイディアを踏襲しているものも多く見られます。
そういった「これまでの集大成」的な演出も、ファンにとっては楽しめる部分だと思いました。
6.村山さんの卒業
『ザワ』は主人公・花岡楓士雄をはじめとした鬼邪高校・全日制の生徒達と希望が丘団地の幼馴染達がメインの物語ですが、同時進行で村山さんの鬼邪高校卒業までのストーリーが語られます。
予期されていたことではありましたが、初めて観た時は、やはり涙を流さずにはいられませんでした。単純に卒業が寂しかった気持ちももちろんありますが、それと同時にこれ以上ないほどのハッピーエンドであった事への感動も大きかったです。
『ザワ』には、私の大好きな村山さんの、大好きなところが余すことなく詰まっていました。
常に偉ぶらず、仲間達には弱い部分も躊躇なくさらけ出すし、子供のようにはしゃいだり暴れたりもするけれど、他者への敬意や感謝はきちんと示す。
その一方で、鬼邪高校の番長としては全日制の後輩達を叱咤し、突き放し、時に仲裁に入り、また見えないところで手助けもする。
そして、自分なりの筋を通して行動するけれど、新しい物事の見方を知った時には、黙ってじっくり思考する。この描写が本当に嬉しかった。
そう、村山さんは「立ち止まって考えることができる人」なのです。それが今回も示されていたという点は、個人的にこの作品を信頼できた大事な要素でした。
『ザワ』の最後、村山さんはいつも傍にいた古屋、関の二人とともに、鬼邪高生として共に戦ってきた(つまり鬼邪高生キャストとして長年共演してきた)大勢の仲間達に祝福されながら、三人で揃って卒業します。
大冒険に向かう時のように、遠く向こうを指差して、「出発!」と高らかに宣言しながら。
きっと三人は、あのバイクで、色々なところに行くのでしょう。自分達の五感でたくさんの新しい経験に触れて、これからもっともっとカッコいい大人に成長していくのでしょう。
寂しいけれど、でもそれ以上に晴れやかで、何よりも幸福な結末でした。
全てのシーンが、村山さんへ贈られた花束のように感じられました。
でもだからこそ、『ザワ』を何度も観ながら思っていました。
「ああ、私も村山さんから卒業しなければいけないな」と。
鬼邪高校を離れた村山さん達のその後はまだ分かりません。
ただ、インタビューやパンフレット等での山田裕貴さん、鈴木貴之さん、一ノ瀬ワタルさんの言葉にも明確に“卒業”の意識が感じ取れたことから、私はなんとなくこう意識するようになりました。
「もしかしたら私はもう村山さんには、二度と会えないのかもしれない」
「ハイローの世界で生きて、その生き様を私たちに届けてくれていた村山さんの今後は、もう描かれないのかもしれない」と。
でも、それがHiGH&LOWの、鬼邪高校の、村山さんの出した答えなら、私は受け入れなければならないはずでした。
私がこれまで、村山さんからたくさん力をもらってきたからです。
私は私で、前に進まなければいけない。いつも画面の前で、夢中になって受け取ってきたその力を、今度は別の形に変えて。
そう考えた時に、気が付いたのです。
この作品から受け取ったものを、自分の力に変えていく。そうして新たに得られたものを大切にする。いつか自分も、誰かに力を与えられるように。
そうしていくことができたら、私はずっと村山さんと繋がっていけるんじゃないだろうか、と。
私はあくまで受け手として、こんな風に作り手と繋がれるんだ。
そう思った時、私の中に不思議な充足感が生まれました。
ただ、その正体は、まだはっきりとつかめないままでした。
(もう少し続きます。)